ゴールドマン・サックスバッシング

「無神経に金を巻き上げる」全米で広がるゴールドマン叩き産経新聞 2012年3月27日)


米最強銀行とうたわれた、ゴールドマン・サックスたたきが激しさを増している。内部告発、規制強化、不利な判例と四面楚歌(そか)である。ウォール街占領運動に見られるような格差問題が火をつけたのか。それとも、ゴールドマンの企業文化が常軌を逸したのか。

「たった一人の見解を元に意見記事を掲載するなんて信じられない。公平でないと思うし、バランスが取れていない」

16日早朝、ニューヨーク市内の講演会に登場した米大手投資銀行モルガン・スタンレーのゴーマン最高経営責任者(CEO)は、ゴールドマン寄りに立った発言を繰り返した。数日前にも、JPモルガン・チェースのダイモンCEOが似たような発言をしている。公式見解とはいえ、犬猿の仲であるライバル銀トップがゴールドマン擁護とは相当の事態である。

やり玉に上がった「記事」とは、米ニューヨーク・タイムズ紙に掲載されたゴールドマン元社員、グレッグ・スミス氏の投稿だ。「金を稼ぐことを考えるあまりに、顧客の利益が脇に追いやられる経営が続いている」とした告発文で、スミス氏は記事掲載と同時に退職した。

スミス氏は12年ほどゴールドマンに勤めた中堅で、株式派生商品の販売担当だった。「(ゴールドマンの)環境が毒性かつ破壊的になった」「無神経に顧客から(金を)巻き上げることを話しているのを聞くと気分が悪くなる」と記事では糾弾し、ゴールドマンのブランクファインCEOらを批判した。倫理観を理由に社員が実名で雇用主を批判するのは、「強欲の街」ウォール街ではめったにないことだ。

ゴールドマンほど同業他社からねたまれ、警戒される金融機関は珍しい。2010年には債務担保証券販売で、「不実開示」を問われて制裁金を支払い、昨年は取締役が増資情報を漏らしたインサイダー事件が明らかになった。不透明な株売買といえば、ゴールドマン元会長の現役取締役がニューヨーク連銀会長だった08年12月、ゴールドマン株を購入し、CDO事件が明らかになる前に法律顧問が保有株を売った。が、両者とも留任し、ひんしゅくを買っている。

パイプライン運営会社エル・パソの同業キンダー・モルガンへの身売り計画への助言をめぐり利益相反を問われたエルパソ事件。「顧客が承知ならば問題ない」というのがゴールドマンの見解だったが「このような人目を忍んだ対応は合法性への疑いと不信感を生む」とこのほど著名判事に一蹴(いっしゅう)された。

ゴールドマンほどリーマン・ショック後に評判が急降下した金融機関はないが、このほどクリントン元大統領の元スポークスマンを広報担当の責任者にすえた。レピュテーション(評判、顧客からの評価)リスク顕在化の根っこにあるのは広報術ではなくガバナンスなのに、またもやワシントン頼みとは…。(産経新聞ニューヨーク駐在編集委員・松浦肇)

まあこの手のバッシングは極一部の例外を除き、時間と共に忘れ去られることが殆どだ。
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