一点突破主義の再生エネ法案

市民ゲリラの本性見せた菅首相 一点突破主義の再生エネ法案毎日新聞 2011年6月27日)


国会議事堂の中央塔に「総理募集」の垂れ幕が掛かったパロディー写真を、かつて新聞で見たことがある。確か「君もやってみないか」の呼びかけ文が添えられていた。現下の状況はまさに「急募! 日本国総理大臣」である。

失礼ながら、菅直人首相は今や、政権中枢の「濡れ落ち葉」と呼ぶにふさわしい。掃いても掃いても床にへばりついて離れない。その粘着力は常人の想像をはるかに上回る。強力な後継候補が控えていれば、もう少しは謙虚になるのだろうが、いないものだからたちが悪い。

「国会の中には、菅の顔だけはもう見たくないという人も結構いるんです。本当に見たくないのか。それなら早いこと、この法案を通した方がいい」(6月15日)

こうして再生可能エネルギー買い取り法案の成立を訴えてはしゃぎまくる首相の映像は、民主党を含めて政界の神経を逆なでし続けた。

◇「菅降ろし」の仕掛け人は電力業界という陰謀説
6月2日の内閣不信任騒動以降、首相と面会した人たちが口々に語るエピソードがある。「菅降ろし」と電力業界とのつながりに、首相が強い関心を抱いているというのだ。

中部電力浜岡原子力発電所の運転停止を要請してからというもの、菅政権への風当たりは格段に強まった。電力業界は、浜岡を起点に「脱原発」へと突き進むのを極端に警戒している。そこで電力業界の息のかかった勢力が国会議員に働きかけ、「菅降ろし」を仕掛けていった。その中心にいるのは東京電力だ−−。

情報を総合すると、首相の頭の中ではこのような陰謀説が形作られているようだ。さらに原発を容認してきたアンシャン・レジーム(旧体制)と闘うのが自らの歴史的使命だと勝手に思い込み、反則技を駆使しても政権にしがみつこうと考えている可能性がある。

確かに原発には「金まみれ」の臭いがつきまとう。「水力12円、火力(石油)11円、原子力5円」。政府は、毎時1キロワットの電力を作るのに必要なコストをこう説明し、原発の「安さ」を強調してきた。ただし、迷惑施設である原発の立地は容易ではない。火力や水力との差額は、不透明な「原発マネー」に姿を変えて社会の隅々に浸透してきたことだろう。当然ながら政界は主要なターゲットだったはずだ。

しかし、だからといって電力業界に突き動かされて「菅降ろし」が拡大したと首相が考えるのは、自らの失態に対して無自覚過ぎる。

大震災直後、福島第1原発の全電源喪失でパニックに陥り、おびただしい津波被害者の救援を一時棚上げして現場視察を強行したのは誰か。

セカンド・オピニオンを聞くためと称して外部の人物を続々と内閣官房参与に登用する一方、足元の官僚機構をフル稼働させられなかったのは誰か。

自民党谷垣禎一総裁に突然電話で入閣を要請し、相手がためらうと「私の内閣に協力できないのか」と毒づいたのは誰か。

未曽有の大惨事である。誰がトップであっても、完璧な震災対応などできたはずがない。しかし、菅首相でなければ起きなかった無用の混乱はいくらでも指摘できる。

「言葉に心がない」との批判も繰り返された。これをやる、あれもやるとの決意表明はたびたびあったが、1万5000人にも達する犠牲者への鎮魂について、記憶に残る言葉はほとんどない。

6月11日、岩手県釜石市を視察した首相は、ボランティアセンターを訪問し、寄せ書きへの記入を求められた。何を思ったのか、首相は「決然と生きる 菅直人」と書いた。これが果たして被災者へのメッセージだろうか。自分の思いを語るのには熱心なのに、相手の痛みには鈍感な首相の思考パターンが如実に表れているような気がする。

国会は6月22日の会期末当日になって70日延長が決まった。岡田克也幹事長ら民主党執行部は、第2次補正予算案と特例公債法案の成立を菅氏の退陣条件にすることで自民、公明両党と合意に達していた。ところが、首相が猛烈に巻き返して再生可能エネルギー法案の審議入りまでは認める方向になった。

◇何ひとつ実現されないむなしいスローガン

俺の顔を見たくないなら法案を通せ、と乱暴に言い放った通り、首相はあらゆる手段を使って再生エネ法案の成立にこぎつけようとするだろう。首相の退陣時期が見えてきたとは到底言えない。

「今回の原発事故を契機に、エネルギー基本計画を白紙から見直し、風力や太陽光発電などの自然エネルギーを、《次の時代》の基幹的エネルギーとして育てることにしたいのです。その為の大きなステップとなるのが、『自然エネルギーによって発電した電気を固定価格で買い取る』という制度です」

首相は不信任騒動直後の6月6日からメールマガジンに《次の時代》と題する連載を始め、再生エネ法案の重要性を繰り返し説いている。それほど大事な法案なら従来からアナウンスしておくべきなのに、今年1月の施政方針演説には影も形もない。退陣時期を明示せよとの圧力に呼応して首相が優先度を高めたのは明らかだ。

昨年6月の発足以来、菅内閣の看板スローガンは目まぐるしく書き換えられてきた。

「公費で需要や雇用を創出する『第3の道』」「『強い財政』に向けた消費税の増税」「『熟議の国会』の実現」「平成の開国」「税と社会保障制度の一体改革」

振り返れば、何ひとつ実現できていないことが分かる。このまま実績なく失脚することが耐えられなくなり、たまたま31年前の初当選時にかじった自然エネルギーの促進に飛びついたというのが真相ではないか。状況次第で簡単に目標を変えるのが菅氏の体質だ。

再生エネ法案に対して、産業界には電気料金の値上げにつながるとの慎重論が根強くある。原発依存から脱却していくことはもはや避けられない流れだが、他方でエネルギー政策全体について冷静な議論も進めていかなければならない。

それをすっ飛ばしても、自分に敵対する電力業界に風穴を開けたい。状況を変えるには、全体の議論よりも、一点突破でいいんだ−−。市民ゲリラとしての本性をむき出しにした首相のがなり声が、法案の裏側から聞こえてくるようだ。

「たまたま31年前の初当選時にかじった自然エネルギーの促進に飛びついたというのが真相」は本当だろうwww

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