18歳選挙権
18歳選挙権 「成人」との矛盾どうする(福井新聞 2012年3月4日)
選挙権を持つ年齢を18歳まで引き下げる議論が、衆参の憲法審査会で行われている。超少子高齢社会で負担世代となる若者の意思を政治に一層反映させようとの狙いには賛同できる。だが18歳といえば高校3年生であり、きちんとした判断ができるのか、疑念もぬぐいきれない。 さらに18歳選挙権となれば「成人年齢」との関係が問題となる。例えば選挙違反をした場合、少年法では刑罰が科せられないという矛盾が生じる。飲酒や喫煙年齢まで引き下げることに賛同は得られないだろう。両院の憲法審査会では、選挙権とともに民法上の成人年齢を引き下げるか否かをめぐり対立の様相を呈している。見切り発車や棚上げは許されない。矛盾を一つ一つ解決していく熟議を求めたい。 ■国際標準に足並みそろえる■ なぜ今、選挙権年齢の見直しなのか。事の発端は2007年に成立した憲法改正のための国民投票法で、投票権を18歳以上としたことにある。付則で施行の10年5月までに公職選挙法や民法など関係法令の年齢規定を見直すよう求めていた。ただ、政府の法制審議会が09年に成人年齢の18歳引き下げを「適当」と法相に答申した際、改正時期を国会にゆだねたことなどから、政府の作業は中断した。1年以上を経ての着手は怠慢と言わざるを得ない。 ところで、政府は引き下げの理由として、欧米主要国では成人、選挙権年齢とも18歳としており、国際標準に足並みをそろえることなどを挙げている。超少子高齢社会で低下する若年層の政治的影響力を少しでも高めなければならないのも確か。選挙権を持つことで逆に政治的な関心を高めてもらおうとの狙いもあるようだ。 ■裁判員裁判にも参加?■ 衆参の憲法審査会の議論では、法務省が「公選法と民法が一致する必要はない」と、選挙権の先行引き下げを主張。総務省は「多くの国で成人年齢と選挙権年齢は同じ」として公選法、民法の同時改正を求める。議員の意見も両論対立の構図となっている。さらには「時期尚早」との意見もあり、先が見通せない状況にある。 民法との矛盾点は、少年法でいえば選挙違反の取り扱いが気掛かりだ。自身に違反意識がなくとも利用される場合も想定される。飲酒、喫煙の禁止年齢のほか、競馬の馬券購入禁止年齢も絡んでくる。また裁判員裁判や検察審査会件では、裁判員や審査員は有権者の中から選ばれる。選挙権年齢の引き下げで当然、18、19歳も対象になってくる。「学生」を理由に辞退はできるが、参加した場合、極刑判断を求められるような裁判に耐えられるだろうか。 「今の若者は年々、未成熟化している」と指摘する識者がおり、選挙・成人年齢の引き下げに懐疑的な意見も少なくない。内閣府が08年に実施した世論調査では法改正に反対する割合が69%に上った。当事者の高校生が必ずしも引き下げを容認していないという。 ■求められる政治教育の充実■ 県内の大学に通う県外出身学生に聞くと「住民票を移していないから県内で投票はできない。かといって実家に帰って投票するには経済的な負担があるし、そこまでして投票しようとも思わない」といった答えが返ってきた。県外の大学や専門学校へ進学した本県出身者も同様のケースが少なくないのではないか。これでは若年層の投票率は低調にならざるを得ない。 こうした背景には、中学や高校で政治に関心を持つような教育が行われていないことが挙げられよう。模擬投票などが行われているが、必ずしも政治意識の向上にはつながっていないようだ。 ただ、受験教育中心の今の高校、中学で十分な政治教育ができるのか懸念される。しかし18歳選挙権を導入するならば教育は欠かせない。総務省の有識者研究会も昨年末の報告書で「将来を担う子どもたちに主権者として必要な政治教育を充実させるべきだ」とした。政治家にはこうした提言も肝に銘じ、議論を深めてもらいたい。 |