使い捨てされる首相
首相の使い捨ては続くか(産経新聞 2011年8月19日)
今年も首相が代わるようだ。「歌手1年、総理2年の使い捨て」といったのは竹下登元首相だが、“自業自得”の側面があるとはいえ、「1年の使い捨て」が安倍晋三元首相以降、5人続くのは異常だ。 平成21年8月、「政権交代」を掲げた民主党が衆院選で圧倒的な支持を集め、自民党は初めて衆院第一党から転落した。しかし、民主党がマニフェスト(政権公約)に掲げた新たな財源捻出は「4年間で16・8兆円」という目標に遠く及ばず、ガソリン税などの暫定税率廃止見送りを手始めに目玉政策は相次いで後退した。有権者が期待した「政治主導」も、司令塔となる国家戦略局の設置さえできず、官僚を使いこなせない「政治家の暴走」が目立っている。 「難しくてできないなら、『もう辞めなさい』という話になってしまう」 民主党の小沢一郎元代表は10日の講演でこう述べた。小沢氏は「だから、なんとしても国民との約束を実現しなければならない」と続けたのだが、マニフェスト自体に無理があった。本来なら潔く与党を「辞める」べきだろう。 だが、なかなか首相を辞めさせられないのと同様、与党を辞めさせるのは容易でない。菅直人首相が退陣し、新首相が誕生すれば民主党内の混乱は表面上収まり、敗北確実の衆院解散・総選挙に踏み切る可能性はなくなる。24年度予算編成が始まると、なにかと役得の多い与党から飛び出そうという議員もいなくなるだろう。 かくして来年の通常国会も予算関連法案をめぐって与野党攻防が繰り広げられ、場合によっては首相が使い捨てられ、秋には民主党、自民党ともに代表・総裁選という党内抗争に突入していく…というのが最悪のシナリオだが、その可能性は決して低くない。 蛤御門の変から明治維新まで4年、日本最後の内戦とされる西南戦争が起きたのはさらに9年後である。今はまだ、「政権交代可能な政治体制」確立に向けた過渡期なのだろう。しかし、世界のスピードは幕末と異なり、東日本大震災という国難も抱える。過渡期は少しでも短い方がいい。 政権を安定させると同時に、政権交代可能なシステムとはどうあるべきか。政策だけではない。選挙制度や衆参両院の関係、代表・総裁選のあり方まで、6人目、7人目の首相を使い捨てにしないために与野党が考えるべき課題は多い。 |