パロディー訴訟のモデルケース

パロディー商品、どこまで笑える?「白い恋人」vs「面白い恋人」審理の行方(産経Biz 2012年2月12日)


世の中にあまたあるパロディーを、どこまで笑って済ませるか。個人の感情はさておき、企業間で争いになった場合、法律で線引きするのはなかなか難しい。この議論で目下の関心を集めているのが、吉本興業大阪市)の菓子「面白い恋人」をめぐる訴訟だ。元ネタとなっている北海道の人気菓子「白い恋人」のメーカーが商標権の侵害を訴え、吉本側に販売差し止めを求めて札幌地裁に提訴した。ヒット商品への「フリーライド(ただ乗り)」とみるか、吉本なりの「笑い」と受け流すか。審理の行方はいかに。

白い恋人は、ホワイトチョコをクッキーで挟んだ菓子。札幌市の石屋製菓が昭和51年に発売し、出張や旅行の際の北海道土産として全国に浸透した。平成22年度の売上高は72億円に達するなど、人気や知名度は高い。

一方の面白い恋人は「1年をかけて開発した」というみたらし味のゴーフレットだ。22年夏から大阪、京都、兵庫の主要駅などで販売され、こちらも売り上げは好調という。

「東京でも売られ、見過ごせなくなった。悪乗りが過ぎ、全然面白くない」

石屋製菓の島田俊平社長は昨年11月の記者会見で、提訴に至った心境をこう述べた。

同社は面白い恋人について、白をベースに青や金色を配したパッケージが白い恋人と類似していると指摘。「長年かけて築きあげた白い恋人ブランドに確信的にただ乗りしている。商道徳・コンプライアンスの欠落は厳しく非難されるべきだ」と批判し、訴訟では約1億2千万円の損害賠償も請求した。

法的にパロディーはどこまで認められるのか。類似商品の規制としては商標法と不正競争防止法に規定があるが、パロディーに関して明確なルールがあるわけではない。

商標が類似するか否かについては昭和43年に最高裁で基準が示され、外観▽観念(イメージ)▽呼称−の3点に取引の実情などを含め全体的に考察する、とされている。

さらに不正競争防止法は、商品の類似によって消費者に「混同を生じさせる行為」(2条1項1号)を違法と規定。さらに「著名」なブランドと似ていれば、混同しなくても不正競争に当たる(同2号)と定めている。

過去の訴訟では「三菱」の商号やスリーダイヤマークが「所属企業を表すものとして著名」と判断され、三菱の名前が入った熊本市の不動産会社に使用差し止めが命じられた。

石屋製菓も訴訟の中で白い恋人の著名性を主張。19年9月に実施したアンケート結果などを根拠に挙げ、首都圏の92%、関西圏の94・5%が「どのような菓子か分かる」と回答した、としている。

「寝耳に水というか…。驚きました」。困惑を隠せないのが吉本側だ。面白い恋人のコンセプトは吉本らしい「笑いとユーモア」という。白い恋人のパッケージで描かれた白銀の山並みを、大阪城のイラストに置き換えてパロディー化、手にした人をクスリと笑わせる商品になっている。

吉本の広報担当者は「ブランド価値をおとしめたり、不当に利益を得たりするつもりはない」と話す。

白い恋人面白い恋人の“バトル”について、北海道大学大学院の田村善之教授(知的財産法)はパロディーだけに当然似ている部分はあるが「消費者が間違えて買うことはないだろう」とし、不正競争防止法の「混同を生じさせる行為」には該当しないとの見方だ。

ただ「著名性」になると話が別。過去の訴訟例からすると「アンケートで7〜8割の人が知っているという結果が出ると著名だと判断され、違法性が認められる可能性がある」という。そのうえで田村教授は「パロディーについては明確な判例がない。この訴訟はパロディーを法律的に考える機会になるのでは」と注目する。

関西大学法学部の山名美加教授(同)は「パロディーも文化。一般論としては封じ込めるより、許容される社会のほうがいい」と指摘する。

山名教授は著作物の自由な二次利用を認める米国の「フェアユース(公正利用)規定」に言及。「オリジナル作品の市場を奪わない」など4つの条件をクリアすれば、パロディーでも許諾は不要とされているという。国内でも導入の動きが活発化しており、「フェアユースの判断では、白い恋人の市場が奪われたか否かが、重要な論点の一つになる」としている。

吉本は創業100周年事業のテーマに「地域活性化」を掲げており、石屋製菓という地方を代表する企業との法廷闘争は避けたいのが本音。「できる限り早い段階で話し合いの機会を持ちたい」としており、早期解決を図りたい考えだ。

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