生活保護
法改正が不可欠、義務規定少ない“大甘”の生活保護法(産経新聞 2012年5月27日)
厚生労働省と全国銀行協会が、生活保護認定にあたって金融機関の「本店一括照会方式」実施で合意する見通しとなったことは、生活保護費の不正受給防止に向けた前進といえる。 ただ、これは申請者や扶養義務者の収入、資産を把握するため、社会福祉事務所が金融機関本店に対して全国の支店の口座照会を要請でき、それに金融機関側が自主的に応じるというものにすぎず、どこまで正確に収入や資産を把握できるかは不透明だ。 問題は生活保護法29条の規定にある。同条は社会福祉事務所が金融機関に対し、申請者や扶養義務者の収入、資産について「報告を求めることができる」という規定になっており、報告を義務づける内容にはなっていない。 同条の改正について、厚労省は「民間機関に義務を課すのはいかがなものか」(担当者)と慎重だが、今や生活保護の不正受給急増は深刻な社会問題だ。生活保護費の年間支出は国家予算の3・6%まで膨れ上がっており、財政支出の無駄排除やモラルハザード(倫理の欠如)防止の観点から、生活保護の認定は厳正に行われるべきだ。 また、河本さんは母親が受給した生活保護費の一部を返還する意向を示したが、生活保護法77条は「扶養義務者があるときは、その義務の範囲内において、保護費を支弁した都道府県または市町村の長は、その費用の全部または一部を、その者から徴収することができる」としており、当然のことだ。しかし、この規定も自治体に徴収を義務づけてはいない。 このように、生活保護法は肝心な部分について義務規定が少ない「大甘の法律」だ。適正な生活保護制度に向け運用を見直すことも必要だが、その根拠となる生活保護法の改正は避けて通れない。 |