内閣改造

安倍首相は、毒にも薬にもならない改造をすべきでない(産経新聞 2014年8月31日)


9月3日に行われる内閣改造では、「入閣待望組」の処遇をめぐり、「入閣させないと党に不満がたまり、政権の火種になる」などと、あれこれささやかれている。だが、知れたことだが、当選5回くらいを数えれば、ことごとく入閣できるような年功序列型の内閣改造なんて、ときどきに求められる政策課題を確実に進めていく観点からしたら、かなりおかしな政治のありようである。

竹下登元首相が健在なころ、こんな言葉を口にしていたそうだ。旧経世会の事情をよく知る古株の関係者から聞いた。

「国会議員は3種類いて、1つには、大臣になれそうだけれど結局、なれずに終わる人。次に大臣にはなれる人、または何回かこなす人。3つ目は首相になれる人」

佐藤政権までは、政治力や政策能力が今ひとつとされれば、大臣に就任することなく議員生活を終える国会議員が少なからずいたという。竹下氏はこの政権で官房長官を務めており、当時の自民党に浸透していた政治状況を振り返ったのだろう。

当選回数を重ねるだけで、いつかは入閣できるシステムは田中政権以降に確立された。当選2回で政務次官、3回で党政務調査会の部会長、4回で常任委員会委員長、5回か6回で初入閣という流れだ。

佐藤政権のころと比べれば、おのずと競争意識が希薄になり、政治力などを磨かなくても、大臣に就ける「事なかれ人事」の余地が生まれる。

安倍晋三首相は8月上旬に行われた産経新聞のインタビューで、「政策推進力をパワーアップしたい」との改造方針を明言している。とすれば、年功序列の考え方を軸にした改造を行う可能性はないとみてよいだろう。

よしんば、そんな改造をしたところで、限りがある。衆院当選5回以上、参院当選3回以上とされる「待望組」は約60人。大臣ポストは計18しかなく、菅義偉官房長官ら主要閣僚はことごとく留任する方向なので、過ぎた期待を寄せても詮ないのである。

それでも、自民党には、旧来型の人事に期待する向きが根強い。ある待望組は、改造の日程をにらみ、派閥幹部との接触を積極的に行うようになった。周辺によれば、「それまでとくだん、深い付き合いではなかった」という。この幹部はこう吐き捨てた。

「任命するのは首相じゃないか。改造に当たり、派閥の意向はそれほど重視されなくなっている。『大臣病』もここまで来ると見苦しい」

首相とすれば、そんな動きなど意に介さず、こうと信じた改造方針を貫いた方がどれだけいいか。さらなる景気回復を目指した「アベノミクス」の推進、人口減少社会への対応、集団的自衛権の行使容認を含む安全保障の関連法整備…。課題は枚挙にいとまがない。

実際、首相に近いある幹部は「首相は、党内の『待望組』に配慮した人事ではなく、実務型を起用して実績を積み、支持率を回復させる考えだ」と話す。

この幹部の発言には、平成27年秋の党総裁選で再選し、30年までの長期政権を視野に入れた思惑があるのは明らかで、今回以降の改造をちらつかせれば、「処遇できない『待望組』の不満を抑え付けることができる」(同)といったしたたかさと背中合わせだ。

そうはいっても、気がかりなのは、「政策推進力」内閣を旗印にしても、主要閣僚の多くが留任という流れなため、改造内閣が新味のない顔ぶれとなるのは間違いなく、どれほど国民の期待を集められるか、ということである。

首相の祖父に当たる岸信介元首相の在任期間は1241日。首相は、第1次政権を含め、27年5月には肩を並べる。ただ、毒にも薬にもならない改造をして、「安倍カラー」がかすんでそうなったとしたら、首相は胸を張れまい。