犬死が運命づけられている菅直人

「犬死」を恐れる菅首相、でも待っているのは「犬死」か産経新聞 2011年7月24日)


例によって例のごとく、東日本大震災の復旧・復興は二の次三の次で、恥も外聞もかなぐり捨てて、憑(つ)かれたように延命に固執する菅直人首相は、もはや日本の面汚しである。「世論受け」だけを狙い、起死回生のつもりで打ち出した「脱・原発依存」も、浅知恵の発露ゆえか、もう色あせてきており、政権運営のいちいちが慚愧(ざんき)に堪えない。

「犬死にだけはしないから」

このところの首相は、こんな心境をよく口にするらしい。額面通り受け取れば、すでに退陣表明をしているのだから、最後にひと花咲かせ、後世の評価を得たいほどの含意かとうかがえる。

ところが、政府・民主党に渦巻く「菅降ろし」に執拗にあらがっている首相から発せられたとなると、ニュアンスが一変しまいか。つまるところ、引きずり降ろされる形でまんまと首相の座を明け渡すのではなく、あの手この手で続投の布石を打ち、あわよくば来年9月の任期までその任に当たりたい−。おおよそこのあたりが真意であろうと推察する。

懇意にしている関係筋に聞けば、13日夕に開いた記者会見で唐突にぶち上げた「脱・原発依存」発言は、首相が窮余の一策のつもりで放ったのは疑いようがなく、政権の司令塔たる枝野幸男官房長官や、原子力行政をつかさどる海江田万里経済産業相に「事前には、何の相談もしていない」という。

案にたがわず、15日の閣僚懇談会では一部閣僚から詰め寄られ「個人の考え」だと釈明する羽目に陥り、大幅に後退する愚をみせつけた。たった「1日半」で変節するのなら、果たして何のための「エネルギー政策の大転換」表明だったのか。

許し難いのは、サッカー女子ワールドカップ(W杯)ドイツ大会で優勝した日本代表(なでしこジャパン)の栄誉にあやかり、政権維持への魂胆をあからさまにする、そのさもしき心根である。

「『なでしこジャパン』の行動には、私もやるべきことがある限りはあきらめないで、頑張らなければならないと感じた」

19日の衆院予算委員会で首相は恥じらいもなくこうのたまった。五輪のメダリストが大会後、ときの首相に招かれ祝福を受ける光景はこれまでもよく目にしてきた。けれど、首相が今、置かれている政治状況を思えば、招いたとしても、こういう類の発言は慎むべきである。

与野党から批判が出たように、まさに「政治利用」そのものといってよい。なでしこジャパンの威光を笠に着れば続投への流れができると、大まじめに考えたのだとしたら、とんだ三文芝居である。せっかく、「フランクフルトの歓喜」に浸っていた国民に、それこそ「寒気」を持ち込んでしまった。

「これまで首相がいともあっさり、簡単に辞めちゃった方が不思議ですよ」

首相夫人の伸子さんは毎日新聞のインタビュー(6月9日付)で、めいっぱい首相をかばってみせた。首相周辺の話だと、やはり首相にとって伸子さんが唯一、気を許せる相手であり、首相のよき理解者であるようだ。となれば、首相の心象風景は、伸子さんの伝でいけば、簡単に辞める気など到底、持ち合わせていないことになる。

政治家であるのなら、理想主義を掲げているばかりでは政敵に足元を救われてしまうし、夜昼を問わず政争に飽きくれては、国家の大道を見失ってしまう。双方のバランスが何よりも求められているのだが、何よりも現実主義者としての素養が備わっているべきである。

首相が退陣を表明したことで、政府・民主党には離反の動きが顕在化しており、もはやあるべき政権の体をなしていない。党執行部が平成23年度第3次補正予算案の編成は新内閣で実施すべきだと聞こえよがしに発言したり、代表選日程についても8月実施を唱える声がやまない。すでに外堀は着々と埋まっているのである。

首相は、冷静に己の立ち位置を認識することができなくなっているのだろう。「枝野氏も仙谷由人官房副長官も首相に大切な情報を入れなくなってきている」(政府筋)との証言もある。文字通り、滑稽極まる「裸の王様」ぶりをさらしている。

このままでは首相が一番恐れている「犬死」に追い込まれるのではあるまいか。こんな見立ても、あながち的はずれだとはいえない気がしてくる。

菅直人は首相職を一日も一時間でも一秒でも早く犬死すべき!
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