フィリピン海軍の新巡視船配備

「最弱」フィリピン海軍、対中警備を強化 南シナ海に新巡視船を配備産経新聞 2011年12月17日)


フィリピン海軍は12月14日、米国から購入した艦船を改良した新しい巡視船の就役式をマニラで行った。式典でベニグノ・アキノ大統領(51)は「ただちにわが国の主権が及ぶ西フィリピン海南シナ海)に配備する」と語り、中国などと領有権を争う南沙(英語名スプラトリー)諸島がある南シナ海の警備強化が目的であることを明言した。陸海空三軍とも東南アジア最弱とされる装備しか持たないフィリピンは、領有権問題については多国間協議による話し合い解決を一貫して提唱しているが、軍拡に走る中国が聞く耳を持たない状況下で中国に対する脅威感を強め、軍の近代化を急ぐとともに薄れた米国との同盟関係の再構築に乗り出している。


新たに就役したフィリピン海軍の巡視船は、米沿岸警備隊のハミルトン級長距離巡視船だった中古艦を改良したもので、フィリピン独立運動の国民的英雄の将軍、グレゴリオ・デル・ピラール(1875〜99年)の名が付けられた。AFP通信によると、アキノ大統領は「パトロールを強化し、論議の余地のないフィリピンの主権を行動で守らなければならない」と強調。黄海の違法操業での中国漁船と中国政府の対応の横暴さが、国際的に注目されている時期とも重なり、大統領の言葉には力がこもった。

南シナ海をめぐっては、中国、台湾、フィリピン、ベトナム、マレーシア、ブルネイインドネシアの7カ国・地域が複雑に領有権を主張。話し合い解決を目指すフィリピンは今年6月、東南アジア諸国連合ASEAN)の海事専門家会議の場で、「南シナ海を非論争地域と論争地域に分け、非論争地域は主権保有国が開発権を有し、論争地域は主権を主張する複数国が協力開発する」とした南シナ海分割論を提唱して注目された。しかし、中国外務省に「問題の本質は中国と周辺国家による論争であり、南シナ海が中国の核心的(絶対に譲れない)利益であることは明白だ」と一笑に付された経緯がある。

東西冷戦時代、フィリピンには米軍のスービック海軍基地クラーク空軍基地が陣取り、ベトナムカムラン湾に基地を置いたソ連ににらみを利かせていた。しかし、ソ連の脅威が消滅し、米軍撤退が主権回復の象徴だととらえるフィリピン世論に押され、1992年に両基地は返還(閉鎖)された。その後、米国との同盟関係とフィリピンの軍事力は弱体化し、94年には南沙諸島ミスチーフ礁の実効支配を中国に奪われている。

現在のフィリピン海軍の主要艦艇は「グレゴリオ・デル・ピラール」を除くと、第二次大戦中に就役した米海軍の払い下げフリゲート艦である「ラジャ・フマボン」だけという貧弱さだ。こうした状況から、フィリピンは「米比相互防衛条約」を南シナ海での「有事」にも適用し、フィリピン軍の装備の増強、更新を米側が支援することで6月に合意した。11月にはヒラリー・クリントン国務長官(64)がフィリピンを訪問。1月にワシントンで外務、国防担当閣僚が米比安全保障協議会(2プラス2)を初めて開くことを決めた。14日の式典ではボルテア・ガズミン比国防相(67)が「来年、米国から中古船をさらに1艦購入する」と言明。南シナ海には再び冷戦期の緊張が漂っている。

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