台湾総統選挙の結果

台湾の選択 2期目の馬政権(上)国民党の台湾化進む 対中交渉本番に産経新聞 2012年1月15日)


14日の台湾総統選(投票率74・38%)で再選された与党、中国国民党馬英九総統(61)。4年前の前回選挙に比べ得票数を減らしたとはいえ、台湾の有権者は変化よりも安定を求め、馬氏が掲げた「対中融和策」を選択した。「台湾統一」を悲願とする中国の強烈なパワーとどう向き合うか。地政学上、東アジアの要である台湾の行方と2期目の馬政権を展望する。(台北 吉村剛史、河崎真澄)

「台湾人の勝利だ」。14日夜、馬氏は標準中国語と発音の大きく異なる台湾語も交えながら「台湾」を何度も強調してみせた。

人口2300万人のうち、台湾にルーツをもつ本省人(台湾籍)に先住民も加えると約85%を占め、中国大陸から台湾に戦後渡ってきた外省人(中国大陸籍)は約15%。民族構成は多彩だが、「台湾人」意識は高まっている。昨年の世論調査によれば、自分を「台湾人」と考える人は54%、「台湾人であり中国人」は39%、「中国人」は4%にとどまる。

国民党政権が戒厳令を敷いていた1987年ごろまで、「学校で台湾語を話すと罰金を取られた」と年配者はいう。香港生まれの馬氏が、その台湾語を操るのは、国民党も台湾化しなければ政権維持も危ういと知ったからだ。

馬氏は、野党の民主進歩党民進党)を支持する本省人の多くが“日本びいき”であることも意識した。尖閣諸島の領有権問題などで厳しい対日観を持つとされたが、戦前の台湾南部でダムと潅漑(かんがい)施設を建設し、農業振興を図った日本人技師、八田與一の記念公園を整備し、「私は友日派」とアピール。民進党から親日のお株を奪った。

中国大陸をも版図と主張した「中華民国」は、馬政権の下で皮肉にも形骸化し、実態に即した「台湾の中華民国」に変貌した。

「台湾パスポートの価値はますます上がる」。台湾は昨年末、米国のビザ免除制度適用候補になった。近く125カ国・地域が、台湾パスポート保持者へのビザなし渡航を認めるようになると、馬氏は胸を張る。

1期目の馬政権は日本と事実上の2国間投資協定やオープンスカイ(航空自由化)協定締結など公的関係を拡大した。「関係改善で中国が干渉しなくなったため」と馬氏はいう。確かに馬政権が対中関係を改善する過程で、中国側は台湾の「中華民国」が外交関係をもつ23カ国への切り崩し工作を控えた。

中台の自由貿易協定(FTA)に当たる経済協力枠組み協定(ECFA)などの締結で、「FTAが広がるアジアの空白地帯にならずに済んだ」(国民党筋)との声もある。台湾が活路とみる国際的地位の向上は着実に進んでいる。

肝心の対中融和策はどう進むか。懸案の投資保護協定について、台湾の対中窓口機関、海峡交流基金会の江丙坤理事長は「有権者の支持を得た」と協議進展に自信をのぞかせるが、焦点は中台交渉がいつ、経済から政治にシフトするかだ。

中華民国の総統の身分でなければ会うつもりはない」。当選後の記者会見で馬氏は、胡錦濤総書記(国家主席)ら中国共産党指導部との会談の可能性について問われ、こう答えた。

大半が「現状維持」を望む民意に立脚することで再選を果たした馬氏が、政治交渉に駒を進めて「台湾統一工作」を本格始動させたい中国を牽制(けんせい)してみせた格好だ。

馬氏は「三不政策」(統一せず、独立せず、武力行使せず)を唱える。政治問題化を避けながら、いかに経済などで「果実」を得ていくか。中国とのタフな交渉は2期目が本番だ。


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