小沢一郎起訴について

小沢氏はなぜ起訴されたのか? 検審「会社なら上司に責任」産経新聞 2010年2月1日)


検察審査会制度がおかしなものではないという実績を作るため努力する」。31日、政界随一の実力者、小沢一郎の強制起訴を発表した指定弁護士はそう口にした。起訴議決を導いた検審の思いを、くみ取っての言葉だ。

昨年8月初旬。小沢に対する2回目の審査をする東京第5検察審査会の審査員11人が、初めて東京地裁の会議室に顔をそろえた。

男性5人、女性6人。平均年齢34.55歳。若い人も多く、会議室にはどこか緊迫した雰囲気が漂った。

最初に事務局から渡されたのは「不起訴裁定書」。検察から提出されたものでA4版の用紙が約10ページ束ねてあった。検察が不起訴の判断に至った経緯が詳細に書かれていた。

審査員らはその後、2週に1度のペースで東京地裁の会議室で、裁定書を読み込む作業を続けた。午前10時から午後4時ごろまで。8月の夏休み前後には毎週開かれたという。

多くの審査員たちの目に留まったのは、検察官が不起訴とした理由よりも、捜査資料にあった小沢と元秘書の関係性だった。

「毎朝、秘書は小沢邸に集まってから仕事に出かけていた」「小沢氏は秘書に『コピーは紙の裏側を使うように』と指示していた」

こんな細かいことまで言っていたのか−。審査員たちはその特異な関係性に驚き、「ましてや大金について小沢氏への報告なしに秘書が勝手に判断するとは考えられない」との思いを抱くようになった。

関係者によれば、審査員たちの間では当初から、強制起訴に消極的な意見はほとんど出なかったという。

その8ヶ月前の昨年1月15日。東京地検特捜部は衆院議員、石川知裕(ともひろ)ら元秘書3人を逮捕した。射程にあったのは「小沢立件」。だが、至らなかった。不起訴の背景に何があったのか。

元秘書らについては前年の平成21年末に「在宅起訴」との方針が固まっていたが、特捜部幹部らが、消極派だった最高検幹部らを説得して「逮捕」のゴーサインを得た経緯がある。

小沢の資金管理団体陸山会」が問題の土地を購入した同時期に、中堅ゼネコン「水谷建設」から小沢側への裏献金疑惑があったためだ。

献金が土地購入費の原資に含まれていることが立証できれば、裏献金を隠したいという虚偽記載の動機が明確になり、小沢の関与も自然と浮かび上がる−。これが説得材料だった。このため、裏献金を認める石川の供述が「小沢立件」の必要条件となった。

「石川は絶対に割れる」。当時の特捜部幹部らは自信を持っていた。

逮捕から数日後。石川は「小沢先生に報告し了承を得た」と供述した。だが、裏献金については頑として認めなかった。捜査現場が上層部を再び説得する余地はなかった。

ある検察幹部は「『石川供述』は小沢への報告の日付さえあいまい。小沢ほどの政治家を起訴するには100人の裁判官がいたら100人が有罪にする証拠がないとダメだ」と語った。

これに対し、国民感覚を反映させる検審は「石川供述」について検察とは正反対の評価をした。

小沢に報告したとされる時点から取り調べまでに約5年が経過している点や、報告が日常的な業務の場所で行われた点に着目。議決では「細かな事項や情景が浮かぶような具体的、迫真的な供述がなされている方が、むしろ違和感を覚える」と指摘した。

「会社では部下が上司に報告して『おう、そうか』となったら、上司に責任がある」。審査過程では、そんな身近な経験をもとにした意見も出たという。

検審関係者は自信を持って語る。「石川被告の供述や、不明朗なカネの動きといった証拠があるのに、なぜ検察上層部は起訴を認めなかったのか。他の人が審査しても起訴すると思う」

起訴議決の公表から4ヶ月を経ての強制起訴。指定弁護士はこんな言葉で検審の判断を支持した。「(自分たちも)証拠を検討して、起訴できると判断した」(敬称略)

小沢一郎民主党元代表が強制起訴された。「剛腕」の事件にかかわった当事者は何を考え、どう対処したのかをえぐる。

指定弁護士の「試練」 有罪立証へ高い壁産経新聞 2010年2月1日)


「いろんなことがあったが、やっとここまで来た」

検察官役の指定弁護士、大室俊三は民主党元代表小沢一郎を強制起訴した会見で、こう語った。同じく指定弁護士の村本道夫、山本健一も一様にほっとした表情をみせ、これまでの道のりが容易ではなかったことを強くうかがわせた。

東京・霞が関の法務・検察合同庁舎14階の執務室。日比谷公園に面した部屋に、3人は昨年10月22日の選任から連日のように通いつめ、小沢と元秘書3人との共謀関係を焦点に準備を進めた。東京地検は特捜部から事務官3人を専属で配置、サポート態勢を整えた。

捜査資料を約2週間で読み上げ、昨年12月からは関係者の事情聴取に着手。だが元秘書らには「被告人の立場なので」と拒否された。小沢にも「われわれの視点で聞きたいことがある」と聴取を要請したが、断られた。結局、聴取できたのは1人だけだった。

大室は「聴取要請が実現しなかったという意味では自分たちの思い通りだったとはいえない」としつつ、「必要な捜査はできた」と胸を張った。

検察審査会制度の規定がきめ細かなところまで整っていない」。今回、3人はこうした実感を持ったという。たとえば、小沢に聴取要請したとき。地検内で聴取ができればいいが、ホテルを借りる場合に費用はだれが負担するのか。

こうした問題は、昨年4月に兵庫県警明石署の元副署長が強制起訴された明石歩道橋事故でもあった。指定弁護士を務めた安原浩らは起訴後、公訴時効の法解釈について専門家に鑑定書の作成を依頼。神戸地検に捜査費用を請求したところ、「検察官は自分で法解釈をするので捜査費用を出せない」と拒否された。

安原は「現状はまさにボランティア」と語る。指定弁護士の報酬は「10万〜120万円」と規定され、1審判決後に裁判官が金額を決める。夜間や土日も時間を費やすため、割に合わないのが実情だ。

選任から約100日。大室は「執務時間の3〜4割をこの事件に使った」。山本は「150〜200時間。一般業務もあるので、時間的にも精神的にもゆとりがなくなった」という。

補充捜査が大詰めを迎えた1月中旬、起訴議決の支えとなった小沢の元秘書側の供述調書の任意性や信用性が揺らぐ材料が、相次いで浮上した。

衆院議員の石川知裕は特捜部による任意聴取を録音。その記録を明らかにし、小沢の事件への関与を認めた供述が「誘導」によるものだったと主張し始めた。

小沢の公判への影響は避けられないが、大室は録音記録について「あれだけの地位にある方が身柄も拘束されていないのに誘導されたといえるのか」と淡々と受け止め、村本は「議決の支えだったかもしれないが、それ以外の材料で考えていくしかない」と話す。

また、大阪地検特捜部の証拠改竄事件で逮捕、起訴された元検事が作成した大久保隆規の調書5通を検察側が撤回した。

そもそも検察が2度不起訴とした事件であり、有罪立証のハードルは相対的に高いといえる。

「有罪の判断が出される事案だと思っている。問題は裁判所がどこまで立証のレベルを求めるかだ」と大室は自信をのぞかせる。だが、公判では「合理的な疑い」を裁判所に印象づければいい被告側の弁護と異なり、一つ一つの主張に確実性が求められる。

「これから裁判の本番が待っている。さらに気を引き締めてがんばらないといけない」と山本は話す。指定弁護士の「試練」はこれからが本番だ。

こうして「無罪請負人」は選ばれた産経新聞 2011年2月2日)


「絶対に無罪を獲得しなければならない」

昨年10月初旬。検察審査会の起訴議決が公表された直後から、小沢一郎の周辺では刑事裁判に向けた弁護士選びが活発化した。

ヤメ検はやめたほうがいい」。元検察官の弁護士である「ヤメ検」は検察捜査の手法を知り尽くしているとして、特捜部事件などでは重宝される。だが、ある側近議員は弁護士の条件としてこう主張した。

側近議員の頭をよぎったのは、元首相の田中角栄が5億円の受託収賄罪などに問われたロッキード事件だ。弁護団には元大阪高検検事長、元福岡高検検事長ら大物ヤメ検がずらりと顔をそろえた。だが、1審で懲役4年、追徴金5億円の実刑判決を受け、完敗した。

ヤメ検だから有利というのは違う」「刑事事件で無罪を勝ち取った実績のある弁護士を入れるべきだ」

側近議員らの進言に、約7年続いた田中の1審公判をすべて傍聴したとされ、法廷戦術を熟知する小沢も異論はなかった。

白羽の矢が立ったのが、郵便不正事件で厚生労働省元局長、村木厚子の無罪判決を勝ち取ったばかりの弘中惇一郎だった。

ロス疑惑など数々の刑事事件を無罪に導いた経験から「無罪請負人」「カミソリ」の異名を持つ弘中。「論理的で裁判官と同じ考え方をするので、裁判所からも信用されている」と弁護士仲間の一人は手腕を高く評価する。小沢からも厚い信頼を得ているという。

1月17日夕。東京・赤坂の小沢の個人事務所「チュリス赤坂」に、指定弁護士からの事情聴取要請を受け、小沢と側近議員、弘中らが集まった。協議は約50分にわたった。

小沢は当初、自らの潔白を明らかにするため聴取に応じても構わない、という気持ちだったという。だが、弘中は「聴取に応じるメリットはない」と宣言。結局、小沢は「弁護団に一任する」として翌18日、書面で拒否すると回答した。

小沢と弘中の会談はたびたび行われ、今後の弁護方針について話し合っているとされる。ある政界関係者は「小沢は、側近の誰よりも弘中の言うことを聞くのではないか」と話した。

小沢弁護団は注目の公判に、どのように臨もうとしているのか。4億円の不記載をめぐる起訴議決の有効性、元秘書との共謀の有無にとどまらず、東京地検特捜部の捜査の在り方にまで範囲を広げて反証していく可能性が高い。

弘中は陸山会事件について「法律的にも社会的にも問題が多い事件」と指摘。「事件があったから淡々と進めたというわけでなく、権力の行使の仕方に問題がある」と語り、特定の政治家をターゲットにした捜査だったと暗に批判した。

弘中が正式に小沢の弁護人となった昨年12月以降、共謀立証の核となる元秘書側の取り調べの任意性や信用性を揺さぶる材料が相次いで発覚した。弘中の弁護人就任とは直接関係ないとされるが、2月7日から公判が始まる元秘書3人の弁護人とも定期的に弁護団会議を開き、一丸となって「小沢無罪」への方策を練っているとされる。

弘中が担当した郵便不正事件では、証拠改竄事件や行きすぎた取り調べの実態が明らかとなり、検察当局の信頼が地に落ちた。

ある検察関係者は弘中の“狙い”をこう読み解き、戦々恐々としている。「検察の捜査の信用性を突き、構図を崩していく。まさに郵便不正事件と同じ手法で攻めてくるのだろう」

裁判員・検察官役の指定弁護士・小沢サイドの弁護士とそれぞれの立場で書かれていますね。
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