内柴事件

教え子に乱暴、墜ちた”郷土の英雄” 容疑で逮捕五輪覇者に何が… 事件の背景に悪弊?産経新聞 2011年12月11日)


教え子の準強(ごう)姦(かん)容疑で、アテネ、北京両五輪の男子柔道金メダリスト、内柴正人容疑者(33)が逮捕された事件。日本が生んだ世界屈指の柔道家が、コーチを務める大学の柔道部で未成年の女子部員に“不適切”な行為をしていたことが発覚し、柔道界は大きく揺れている。「不祥事の背景に、柔道界の一部に根付いた“悪弊”があったのではないか」。そう指摘する関係者もいる。捜査関係者らへの取材から、事件に迫った。

教え子たちと酒、泥酔した女子部員を担ぎホテルへ

今年9月19日夜。東京都内の飲食店で7人の男女が談笑していた。ビール、焼酎、ワイン、チューハイ…。グラスの酒は次々に飲み干されていく。この7人は、九州看護福祉大(熊本県玉名市)の女子柔道部員らと、コーチを務める内柴容疑者だった。

この日は、女子柔道部の合宿の最終日。「内柴容疑者と、別のコーチ、女子部員は相当量の酒を飲み、かなり酔っていたようだ」。捜査関係者は話す。内柴容疑者らはさらに、二次会でカラオケ店に行き、そこでも酒を飲んだ。宴会が始まって、すでに数時間がたっていた。

内柴容疑者が他の部員らを残し、1人の泥酔した女子部員と2人きりで消えていったのだ。警視庁捜査1課の調べでは、内柴容疑者は、介抱するように女子部員を背負ってホテルに戻ったが、そのまま一緒に女子部員の部屋に入った。そして、酔った女子部員に、コーチとしてあるまじき行為をはたらいたとされる。

翌朝、内柴容疑者は眠り込んだ女子部員を置いたまま、そっと部屋を出た。酔いも覚め、何かを感じたのか、事件後には女子部員に謝罪のメールを送った。

しかし、その夜の噂は、すぐに学内でささやかれるようになった。内柴容疑者は、同僚だったコーチに「誘われて、その気になってしまった」という趣旨のメールを送ったが、女子部員の関係者は大学に調査を依頼。内柴容疑者は間もなく謹慎となり、週刊誌で疑惑が報じられた。

11月29日、内柴容疑者は大学から懲戒解雇処分を受けた。そして今月6日、捜査員の要請を受け、東京・霞が関の警視庁本部へ同行されて逮捕された。

捜査1課は、内柴容疑者の行為を、抵抗できない状態の女性に乱暴する「準強姦」だったと判断した。

「納得できない。介抱するつもりで部屋に入った。行為も合意の上だった」

同課によると、内柴容疑者は、こう容疑を否認したという。その後も、落ち込んだ様子はなく、淡々と調べに応じているという。捜査関係者は「そもそも、泥酔している女性と『合意』が成り立つのか」と、内柴容疑者の主張に首をひねるが、一貫した否認は変わらないという。

「この歳になっても(指導者を要請される)話がない。僕の居場所はないみたいです」

北京五輪が開催される直前の平成20年5月、内柴容疑者は、こう漏らしていた。相次ぐ故障や不振を乗り越えて4月の国内大会に優勝。日本代表に選出されたばかりだったが、現役引退後の自分を模索しているようだった。

この後、北京で2つ目の金メダルを手にした内柴容疑者は、故郷・熊本県の九州看護福祉大から声をかけられる。念願の指導者になった内柴容疑者は、選手時代同様に実績を積み上げていくことになる。

21年4月、同大の非常勤講師となり、翌22年春の女子柔道部の創部にあわせてコーチに就任。このときはまだトップクラスの現役選手として二足のわらじをはいていたが、同年10月に第一線からの引退を宣言すると、指導者に専念した。今年6月、創部2年目にもかかわらず、全日本学生優勝大会で同大をベスト8に導いた。

「うちには天才はいらない。努力で強くさせる」

こう部員たちをたたえた内柴容疑者には、指導者としての意気込みも伺えた。「大学のそばに畑をつくり野菜を栽培している。選手が強くなるのと、野菜が立派に育つのと、どっちが先か。楽しみなんですよ」

しかし、その一方で、内柴容疑者の悪い噂が学内に出回るようになる。

「主に女性問題。はっきりとした証拠や訴えがあるわけではなく、あくまでも噂の域を出なかったが…」。同大関係者は、こう声を潜める。妻子ある身の内柴容疑者。本当ならば、指導者として好ましい話ではない。

内柴容疑者を知る柔道関係者も「現役時代から、変わっていない。真偽は不明だが、女性関係の噂は何度も聞いた」と証言する。

さらに、大学関係者によると、日頃から学内の駐輪禁止場所にオートバイを止めるなどしており、マナー違反を大学側から度々、注意されることもあった。

それでも内柴容疑者は、大学にとって特別な存在だった。知名度も実績も、指導者としての実力も、内柴容疑者に代わる人物はいなかったからだ。

内柴容疑者の懲戒処分に踏み切った同大の二塚信学長も「著名人で注意しづらい部分があった。(セクハラの)噂は以前からあったが、確認できなかった。指導が甘かった」と記者会見で認めた。

「柔道界には、一部で、強いやつは何やってもいいという風潮があるのは事実。(内柴容疑者が卒業した)国士舘大学は、上下関係が厳しいことで知られている。そうした風土が、間違った形で染みついていたのだろうか」

別の元柔道選手は、こう話す。心身の強さを追い求め、先輩後輩の上下関係を尊重する。武道の美徳ともいえるが、逆にマイナスにはたらいているということなのか。

「大学の運動部には、『先輩の言うことは絶対』というような風潮が散見される。今回の事件は、そうしたパワハラ行為の一環ではないか。内柴容疑者だけの問題に矮(わい)小(しょう)化せず、関係者は反省すべきだ」。スポーツライター玉木正之氏は、こう指摘する。

今月8日、内柴容疑者に熊本県から授与された2つの県民栄誉賞の取り消しが発表された。名誉も信頼も指導者の立場も、すべて失った“郷土の英雄”に、おごりや油断はなかったのか。

言葉もないですね。
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